第9回 《シカゴ編》
僕の最も好きな映画のひとつに、ケヴィン・コスナー主演の『アンタッチャブル』がある。1930年代の禁酒法下で暗躍したマフィア王アル・カポネと彼を検挙するべく立ち上がった財務省捜査官エリオット・ネスの闘いを描いた映画だ。ロバート・デニーロがカポネを好演し、ショーン・コネリーがネスの指導者役として脇を固めている。何よりも出演者が着用しているアルマーニのスーツが当時のアメリカのダンディズムを象徴していていい。
この映画の舞台となったのがシカゴだ。ミシガン湖の南西岸に位置する、全米第3位の大都市である。超高層ビルが立ち並ぶ大都会でありながら、街中にあるゴシック調の建築物が19世紀の雰囲気を醸し出している。ミシガン湖の美しい湖畔は都会の喧騒とは無縁の静けさをたたえる。
北米大陸の北東部に位置し、太平洋、大西洋からも程遠い内陸の街でありながらこれほどの大都市に発展したシカゴは、アメリカでも珍しい例なのだそうだ。ミシガン湖とシカゴ川、そして、ミシシッピー川につながるディスプランズ川が主用交通路となってシカゴの繁栄を支えた。現在ではユナイテッド航空がハブ空港として使うなど、空路でも全米屈指となっている。
1673年にフランス人の神父と探検家が入植したのがシカゴの始まりだと言われる。ChicagoのChiを「キ」ではなく「シ」と発音するのはフランス語派生の言葉だからだとする説もある。やがてイギリスの進出で競争に敗れたブルボン王朝はこの地での植民地主権をイギリスに譲り渡してしまう。入植者たちは先住民との争いを繰り返しながら支配を広げ、1818年にイリノイ州が設立されたときには合衆国の支配が確立していた。
その後、南北戦争における軍需景気とシカゴの大火(1871年)後の大復興で近代都市化を押し進めていった。
夏は高温多湿で30℃近くまで気温が上がるシカゴだが、その冬は厳しい。11月に入ると最低気温が0℃以下になることが珍しくなくなり、12月以降はその日の最高気温ですら氷点下になることも多い。空気が乾燥していて雪も多く、1月ごろには街は辺り一面真っ白な雪に覆われる。
僕はこのシカゴの雪には苦い思い出がある。2000年1月のことだ。アトランタでスーパーボウルを取材したあと、1日だけピッツバーグに寄り、翌日にシカゴ経由で東京に戻る予定だった。いよいよ帰国という日、ピッツバーグ空港に行ってみるとシカゴのオヘア空港が雪でアイスバーンとなり、航空機がキャンセルになったというではないか。仕事の都合でどうしても翌日には日本に着いていなければならなかった僕は、最も早く帰国できる便を手配してもらった。それは――ピッツバーグ→ワシントンDC→フランクフルト(!)→成田というものだった。何のことはない、地球の裏側を通って帰国する羽目になってしまったのだ。それ以降僕は冬の渡米には寒冷地を通過するトランスファーは極力避けることにしている(当たり前か)。
さて、シカゴに話を戻そう。シカゴと言えば超高層ビル群というのが僕の印象だ。最も有名なのはシアーズタワーだろう。通販最大手シアーズ・ローバック社の本社ビルで、シカゴ随一のオフィス街ループに聳え立つ。110階建てで高さは443メートル。96年に完成したクアラルンプールのペトロナス・ツィンタワーに抜かされてしまったが、それまでは世界最高を誇っていた。リバーノースにあり、黒い台形型が特徴のション・ハンコックセンターも100階建ての高層ビルだ。94階の展望台までわずか39秒で上ってしまうという超高速エレベーターが自慢とか。あまりに速くて、耳がキーンとなるのではないかと余計な心配をしてしまう。
シカゴの人気紙シカゴ・トリビューンの本社があるトリビューンタワーの外壁にはピラミッドや万里の長城などの破片が埋め込まれているという。
シカゴを訪れるなら絶対に外してはならないのがシカゴ美術館だろう。メトロポリタン、ボストン美術館と並び称される全米3大美術館のひとつだ。絵画ではゴッホ、ゴーギャンら印象派のものが数多く展示されている。その他、古代エジプトやギリシャの美術、中世ヨーロッパの絵画・彫刻などが数多く展示されており、真剣に見て回るには2日ほど欲しいところだ。
ショッピングならシカゴ川からミシガン湖へ続く「マグニフィセント・マイル(Magnificent Mile)」という通りが有名。世界の一流ブランドはほぼ揃っている。その他、ホテルやレストランも数多く並んでおり、超節約旅行でなければ一度は立ち寄りたい。
これだけの大都市だから、スポーツも盛んだ。北米4大スポーツはすべてが揃い、MLBはホワイトソックスとカブスの2チームがある(NFLはベアーズ、NBAはブルズ、NHLはブラックホークス)。北米4大スポーツのチームが7つ所属するニューヨークを除けば、これほどのプロスポーツチームが揃う都市はシカゴだけだ。
シカゴの最も多く優勝をもたらしたのはブルズだ。マイケル・ジョーダン全盛の90年代に2度のスリーピート(3連覇。「スリー」と「リピート」の造語。)を果たし、全米でのNBAの人気を不動のものにした。そのブルズと同じユナイテッド・センターを本拠地とするブラックホークスは3度のスタンレーカップ制覇を果たしているが、最後に優勝したのは60−61年シーズンと、このところご無沙汰が続いている。ベアーズはご承知のとおり、85年の優勝が唯一のスーパーボウル制覇。
ブルズを除くとシカゴはベアーズのスーパーボウル制覇以来18年間も優勝を味わっていない。MLBはさらにその不遇の時期が長い。サミー・ソーサを擁するカブスは1908年にワールドシリーズを制覇したのを最後に95年もタイトルに見放されている。ホワイトソックスも最後に世界一となったのは85年も前のことだ。2000年シーズンにはヤンキースとメッツが同じニューヨーク勢でワールドシリーズを争ったのとは対照的だ。全米有数の大都市としてはちょっとさびしい。 |