 |
| 明確なビジョンでパンサーズを1勝15敗から2年でスーパーボウルに導いたヘッドコーチ ジョン・フォックス |
それは乱闘にならないまでも、口論となってもおかしくない言葉だった。
ジョン・フォックスはパンサーズの選手全員を集め、その多くが自分よりもはるかに大きく、強く、そして若い彼らの顔を見渡し、ここにいる選手たちがプロでやって行けるだけのタフさを持ち合わせているのか疑問を持っていることを伝えた。
選手たちは彼の言うことを受け入れるつもりはなかったが、その思いは自分たちの中に留めておく方がいいこともわかっていた。そのとき選手たちの前で初めて言葉を発しているその人物が、新たなヘッドコーチに就任したことを解っていたのだ。選手たちは終わったばかりの2001シーズンで、開幕戦に勝利後、NFL史上ワーストの15連敗をしての1勝15敗と低迷したことも解っていた。この結果によりプレーする能力はもちろん、やる気を問われても何も言えない状況であった。
フォックスはパンサーズのプレー能力に関しては、何の疑いもなかった。実際、彼はチームに対し、「個々の能力を見れば、NFLの中でもお前らより優れたチームはない」と話している。彼はただ、選手たちはもっともっとタフになる必要があると考えた。
138キロのDTブレントソン・バックナーは、後日そのときの気持ちを、「おれは座りながら、”おれはNFL選手だぞ。おれたちはよりタフな人間が、世界中に他にいるか”と思った」と話した。
フォックスは選手たちとケンカをしようとは思っていなかった。彼はバックナーやチームメイトたちに、ケンカ以上のものを植え付けようとしていた。
2002年、パンサーズは7勝9敗でシーズンを終えたが、最もいい兆候はシーズン最後の5戦で4勝1敗を記録したことに現れている。この勢いが、今シーズンの11勝4敗と、NFC南地区優勝の基礎となった。そしてプレーオフで3勝した後、スーパーボウル出場を決めた。
これは非常に短い時間での、驚くべき復活劇である。1勝しかしていないチームを引き継ぎ、2シーズン後にプレーオフ進出に導いたことがあるのは、フォックスの他にはヴィンス・ロンバルディとビル・パーセルズしかいない。あと1勝でフォックスは、1勝のチームを2シーズンでスーパーボウル・チャンピオンへと導く史上初のヘッドコーチとなる。
パンサーズの復活劇は、あらゆる理由から実現した。そしてそれはオーナー ジェリー・リチャードソン、元スポーツライターのGMマーティ・ハーニーら、多くの人物の力による。
しかしながら、フォックスのそのスピーチなくしては、成し得なかった。彼は選手全体をやる気にさせるためのボタンを見つけ、その”男としてのプライドを問う”というボタンを押したのだ。
「男としては、その挑戦を受け入れ、フィールド上で自分がどれだけタフであるかを見せたかった」、SSマイク・ミンターは話す。「彼は間違いなく、本当におれたちをやる気にさせた」。
その能力に差はあれ、コーチとは選手をやる気にさせるものだ。フォックスは早い時期にその能力を、パンサーズの強力ディフェンスを築いたディフェンスにおける知識とともに、自らの長所として確立した。パンサーズがフォックスをヘッドコーチに任命した時点で、フォックスはジャイアンツでの5年間でディフェンス・コーディネーターとして一目を置かれる存在となっていた。その前には、スティーラーズ、チャージャーズ、レイダース、ラムズのアシスタント・コーチとして経験を積み、様々な大学、さらにはUSFLでもコーチ経験をした。
フォックスのバックグラウンドを理解することは大切である。なぜなら彼のQBであるジェイク・デロームのように、フォックスも比較的無名なヘッドコーチとしてスーパーボウルに臨む。フォックスがスーパーボウルで対するペイトリオッツ・ヘッドコーチ ビル・ベリチックは、すでにヘッドコーチとしてスーパーボウルを制しており、コーチの天才、ビル・パーセルズのディフェンス・コーディネーターとしても知られる。
フォックスについて知っておくべきは、メディアに対してはあまり自分自身のことをさらけ出さないようにはしているが、彼が感情や情熱を表に出す人間であるということだ。フォックスと選手たちのサイドラインでの様子を見てると、それはすぐに証明できる。彼は叫んだり、時には怒鳴ったりしながらサイドラインをコントロールする。彼は試合中、常に動き回っており、いいことにも悪いことにも激しい感情で反応する。これは前任のジョージ・シーファートに較べ、全く対照的である。シーファート時代には、パンサーズは防具をつけて練習することがほとんどなかった。フォックスがヘッドコーチに就任するとすぐに、パンサーズの防具をつけた練習は劇的に増えた。
フォックスの選手たちは、いつでも彼が何を考えているのか知ることができる。彼は選手たちに直接、はっきりと足りないところを言うが、選手たちは調子のよくないときに不公平な批判を心配する必要はない。例えば、パンサーズは2002シーズンに開幕3連勝を記録したが、その後8連敗を喫し、前年の15連敗と比較する声が高まってきた。もしそこで彼がパニックに陥り、ロースター全体に大きな変更を加えても、それは誰にも理解できることだった。しかし、彼はそうはしなかった。彼はバランスの取れたフィジカルなディフェンス、ミスの少ないラン攻撃を中心としたオフェンス、そして何よりも相手よりタフであるという、自らの信念に固執した。身体的にだけではなく、メンタルな部分でもタフでいることを求めた。
フォックスはそのシナリオを変えることなく、最終的に、選手たちは力強くシーズンを終えた。パンサーズが今シーズン、NFL記録に並ぶ3点差以下の試合で7勝0敗となったことや、ディヴィジョナル・プレーオフでダブルオーバータイムの末ラムズを下したのは、メンタルでのタフさの賜だった。
「人生とは困難や繁栄に満ちあふれており、究極的にはそれらにどう対処するかが、その後の方向性を決める」、フォックスは語る。
フォックスは選手たちより先に、何に対処しなければならないのかを悟った。だからこそ選手たちにタフさを問いかけた2年後、彼はスーパーボウルに向けて準備をしているのだ。 |