第10回
デンヴァー・ブロンコスオフェンスの凄み
〜第14週 カンザスシティ・チーフス×デンヴァー・ブロンコス戦〜 |
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| この試合でブロンコズRBクリントン・ポーティスは218ヤード、5TDを記録した |
始めに断っておくが、僕はカンザスシティ・チーフスのファンであるが、コーチとしてはデンヴァー・ブロンコスのマイク・シャナハンを敬愛する。それゆえ今回の対戦は微妙な気持ちの中で観戦した。
どちらにも勝って欲しい、しかしそれ以上にその戦い振りを楽しみたい。特にチーフスのディフェンシブ・コーディネイター、グレッグ・ロビンソンはかつてブロンコスがスーパーボウル2連覇を果たした時のブロンコス・ディフェンスのコーディネイター。ブロンコスのオフェンスが、それ以来シャナハン&ゲイリー・クービアック路線で変わらずに来ていることから、互いを知り尽くした両者の戦いに、勝敗以上に戦略に注目してしまうのもコーチの一人としては当然のことかもしれない。
結果から言うと、ブロンコスが完全にロビンソンのディフェンスをコントロールした。通常の原稿ではゲームの流れを追いながら、双方のキープレーを紹介するのであるが、ここでは趣味に走らせて頂いて、ブロンコス・オフェンスを徹底的に特集してみたいと思う。
チーフスのディフェンスはご存知の通り、ヴォニー・ホリデイ、ショウン・バーバー、デクスター・マクリオンといった選手をFAで補強したことで、リーグでも有数のユニットに仕上がっている。特にLBのスピードはスコット・フジタの存在もあり、トップクラスを誇り、また身長の面でもTEをカバーするのに優位に立てる。ブリッツの好きなロビンソンにとっては、願ってもない布陣を敷くことができるようになった。
それゆえブロンコスにとってはホリデイ、2年目のDTライアン・シムズ、DEエリック・ヒックスら強いフロント4と速いLBをコントロールすることがまずゲームプランの筆頭に挙げられていたはずだ。
そこで開始早々の1ダウンのプレーで、WR(80)ロッド・スミスのリバースをコールした。チーフスは【図1】にもあるように、ラン守備の際にはSS(25)グレッグ・ウェズリーをボックス内に配置して、8メンフロントを使うことが多い。さらにはツインフォーメーションをとることによって、ゾーンではなくマンカバーを選択させることができる。 |
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ブロンコスはディフェンスが最も警戒しているRB(26)クリントン・ポーティスのランをフェイクとして使い、スミスにハンドオフ。オフェンスラインの全員が左にゾーンステップを踏んでいるため、当然2列目まではランに反応する。FS(21)ジェローム・ウッズはランフェイクがあることと、ゾーンブロッキングからのリードの難しいプレーアクションがあるため、リアクションは早くないはずだ。
キーとなるのは、TE(84)シャノン・シャープをマンカバーしているOLB(51)スコット・フジタの存在だった。しかしシャープがDE(98)エリック・ヒックスをブロックダウンしたことによってフジタはランとリード。そのままスクイーズムーヴして、カットバックを抑えにかかった。
その瞬間スミスが走ってくるのを発見する。時すでに遅し。しかしフジタは後追いをせず先回りをするかのように後へ走り始め、ウッズとともにスミスを追い詰める。
23ヤードのゲイン。開始早々にリバースをコールするとは、通常のディフェンダーは予想だにしない。その攻撃的なコールとそこに秘められた意図に感心するだけでなく、フジタのパシュートコースの中に、チーフスディフェンスの訓練の度合いの高さを見る。
双方1TDを奪い合った後の、第1Q終盤のプレーを【図2】に挙げた。ブロンコス陣36ヤードからの3ダウン5。スプレッドフォーメーションにして、ターゲットを増やす。予想はブリッツ。オーバーロードブリッツかもしれないし、ゾーンブリッツかもしれない。ディフェンダーの様子を見る限り、NB(24)ウィリアム・バーティがラッシュしてきそうだ。加えてそれを裏付けるように(25)ウェズリーが前への警戒を強めている。MLBに入っている(51)フジタもブリッツの構えを見せている。 |
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QB(16)ジェイク・プラマーはそう読みきったのだと思う。そして(80)スミスも同じだった。プレーの開始と同時にラッシュを始めたバーティーを見て、スミスは2歩でスラントのコースに入った。フジタはブリッツを試みて前に上がっている。DLのドロップは左サイドにはない。プラマーは3ステップの形から完璧な形でパスをスミスに投じ、成功させた。ダウン更新。
ロビンソンは今年かつてのオーバーロードブリッツに加え、ゾーンブリッツを多用している。このゾーンブリッツ、3ディープ3アンダーのカバーとなることが多いため、アンダーニースが極端に薄い。それゆえ正確なリードとタイミングとで投げられるなら、アンダーを狙ったパスはほとんど確実に決まり、時にはビッグゲインにもつながってしまう。ただパッケージとして考えるならば、オーバーロードブリッツによるマンカバーの弱点を補うことができるため、悪いコールではない。しかし問題はブロンコスには豊富なレシーバーとタイミングの速いQB、そして何よりもロビンソンをよく知っているコーチがいる。それがこのプレーとなって現れた。
第2Qに入って、同じドライブの中で見せたプレーが【図3】である。チーフス陣38ヤード、2ダウン6。ポーティスのランでディフェンスを動かし、プラマーがネイキッド。スミスにパスを決めた、というプレーだ。 |
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何の事はない、ブロンコスのお得意じゃないか、などと思わないで頂きたい。このプレーにはちゃんと特筆すべき秘密が隠されている。
それはパーソネルである。WRを見て欲しい。左にはTE(84)シャープが、右には同じくTE(89)ドゥウェイン・カーズウェルが入っている。このユニットのパーソネルは、2TE1RBのセットなのだ。それゆえチーフスのディフェンスはLB3人をフィールドに残した。そしてその結果、OLB(59)バーバーと(51)フジタはWRであるスミスと(87)ロッド・マキャフリーとマッチアップすることになるのである。ランのフェイクもあるが、予想とは違うフォーメーションをとられると、ディフェンスはプレーを想定できなくなる。心理的な混乱と同時に、スミスがボールを捕ってからのバーバーとのマッチアップを考えると、スピード的に優位に立て、その結果エクストラゲインを多く見込むことができるのである。
ブロンコスの仕掛けはまだまだ続く。【図4】では今度はプロ2RBのパーソネルでスプレッド隊形をとる。FB(34)ルーベン・ドローンズをWRセットさせてディフェンスを混乱させると、次の瞬間彼を内側にモーションさせる。本来のFBの位置に戻った瞬間、左にランの動き。ドローンズは1歩だけ左にステップを踏んでから、プレーと逆サイドに走り始める。これはスプリットゾーンと呼ばれるプレーのヴァリエーションの1つで、FBがバックサイドのDEをブロックすることでRBのカットバックのコースをこじ開けるというものである。 |
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しかしプレーはフェイクであった。TE(89)カーズウェルの動きに反応してネイキッドブーツレッグであることを読んだフジタは正しい。しかしブロンコスはその上手を行っていた。
ご覧のようにドローンズもまたプラマーのターゲットとなるべくリリースしていたのだった。加えてドローンズをフランカーセットさせてその内側にスミスをエンドセットさせていたことから、スミスはセンターに非常に近い位置にいたことになる。
これによりスミスまでもがネイキッドのターゲットとして計算できることになり、3人の中から選べばいいという選択肢をプラマーに与えることとなった。プラマーはその中からドローンズを選択し、彼にパスをヒット。それをドローンズはキャッチ後のランで16ヤードゲインにつなげたのである。そして2プレー後、ポーティスによってTDが記録された。
コールに痺れる、というのはまさにこういう時だ。プレーが次々につながっていき、そこにはすべてを貫くラインが存在している。
続いての【図5】は、チーフスにTDのお返しをされた後のプレーである。ここでも2TE1RBのセットを使っている。2人のTEはWRセットし、隊形はダブルスロット。ここからHBポーティスをモーションさせてエンプティ。チーフスディフェンスはこのパーソネルに対しNB(24)バーティを入れるようにアジャストしてきているが、もしポーティスがレシーバーとなったなら、彼にマッチアップするのはLBとなる。このパーソネルに対してダイムバックを入れることは不可能なので、確実にそのマッチアップは生み出される。 |
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そして予定通りのマッチアップが生まれた。LBフジタが外側に移動し、ポーティスをカバーに向かったのである。
パスは7ステップからのポーティスへのコーナー。スピード派といってもマンカバー能力は別物である。フジタにポーティスのカバーはやはり重荷であった。ポーティスが横を通り過ぎようとした時に、フジタはジャムしようとして足が止まった。その瞬間ポーティスはテイクオフ。フジタを置き去りにして、プラマーが投げた完璧なパスをキャッチした。30ヤードのゲインである。
続くプレーが【図6】に当たる。勝負が早い、と表現したらいいだろうか。じっくりと機が熟すのを待つより、次から次へと畳み掛ける。そんな感じがする。
ブロンコスは同じパーソネル、同じフォーメーション、同じモーションから、裏プレーを繰り出した。多くの説明は要らないだろう。一つ前のプレーでドラッグを走ったスミスがループアウト。マンカバーをしている(22)マクリオンは、一つ前のプレーを覚えているため、一目散にドラッグの頭を抑えにかかった。しかしスミスは逆の方向へ。
このプレーではQBは5ステップ後、パンプフェイクをしている。パスのタイミング的に先程のプレーのように7歩では長すぎる。きっちりとタイミングが計算されていて、見ていて驚嘆とともに爽快な気分がしてくる。 |
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前半を21−17とリードされ折り返した後、後半に入ってからはブロンコスの独壇場であった。前半からのネタ振りが効果的に力を発揮し、チーフスディフェンスに混乱をもたらしていた。
【図7】に挙げたのは、第3Q開始の1プレー目である。プロ2RBセットのパーソネルで、スプレッドフォーメーションをとる。(84)シャープと(34)ドローンズがWRセットして、LB(59)バーバー、(51)フジタに(80)スミス、(87)マキャフリーというレシーバーをマッチアップさせる。当然両LBの気持ちの中では、パスであるならばこいつらをカバーしなくてはならない、というものであっただろう。 |
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案の定QBがパスの構えを見せた瞬間、(51)フジタはマキャフリーをジャムしに向かった。しかしカバレッジが(21)ウッズをクリープインさせてのカバー3であったことから、マキャフリーに関わりすぎは禁物であった。でもそうはいかない。心理的にプレッシャーを受けている時、冷静な判断は難しい。本来ならば、マキャフリーが内側に行った時点で、彼がシームに入る可能性は小さくなっているので、(50)カウィカ・ミッチェルにカバーを任せ、外側にシンクすべきであった。
実際にはマキャフリーをジャムしている間にパスはシャープにヒットし、そこからキャッチ・アンド・ランで12ヤードのゲインを奪ったのだ。
そしてこの日の集大成と僕が考えるプレーが出た。それが【図8】である。 |
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このプレーはただのゾーンプレーからのカットバックであるが、これまでに振って来たネタが生きに生きたプレーとなった。
直前にもブロンコスはブーツレッグをコールしていた。そしてパーソネルはプロ2RB。始まりはスプレッドからではあるが、(34)ドローンズをモーションさせて2RBの形に戻す。(51)フジタもボックス内に戻り、(21)ウッズを加えて8メンのフロントとなった。2ダウン残りが2ヤードであったことから、8メンの選択は悪かったとは言い難い。問題はプレーの展開の中で生まれた。
プラマーは左にステップを踏み、ドローンズ、そして(26)ポーティスも左にステップを踏み出した。チーフスディフェンスの全員が、(59)バーバーと(21)ウッズを残して左に反応する。
そこまでは問題ない。もしブーツレッグを恐れて反応しないとするならば、通常のランプレーさえ止めることはできなくなるからだ。
しかし問題は残っていたバーバーとウッズにあった。2人の間の役割分担については推測の域を出ないが、ブーツレッグに対しては1人がQBへのプレッシャー、残る1人がTEのカバーを受け持っていたのだと思う。例えば(84)シャープが内側にゾーンステップを踏んだならウッズがQBへのプレッシャーをかけ、バーバーがTEのカバーを。逆にシャープがウッズをブロックダウンしたなら、ウッズがそのままシャープにロックオンし、バーバーがランを見てからQBに襲い掛かる。そういった役割分担があったはずだ。
実際には、2人がともにTEのカバーに走った。バーバーなどは、目の前に大きなホールが開いたにもかかわらず、外側にシャッフルステップを続け、結果的にポーティスのカットバックを許してしまった。
通常ランを出せばパスが決まるとよく言われるが、その逆も真である。パスを出せばランが出るようになる。そのパスもランを絡めているとするならば、効果は絶大である。このプレーによってチーフスディフェンスは崩壊した、と僕は感じた。
そして【図9】で示したプレーによってブロンコスは再逆転となるTDを奪ったのだ。 |
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ここではプレーフェイクからのブーツレッグではなく、そのままプレーアクションパスを仕立てた。ドローンズが何度も見せているように、WRの位置からモーションし、FBの位置に戻る。彼をマンカバーする役目はOLB(59)バーバー。最初セットの際から彼にはつきっきりでカバーしている。
そしてプレーが始まる。バーバーはブロックを受けるかもしれないし、プレーアクションかもしれないという難しい判断の中で、ミスを犯した。当たりに来たように見えたドローンズにかわされ、リターンしようとした瞬間スリップしたのだ。
起き上がって追いかける彼の頭越しに、プラマーの芸術的なロブが飛ぶ。そしてボールはドローンズの手の中に完璧に納まった。
この後チーフスはポーティスのランを止めることは出来ず、59ヤード、28ヤード、53ヤードのTDランを許し、ポーティスは22回218ヤード5TDのレコードデイを楽しむこととなった。
ゲームそのものにチーフスのディヴィジョン優勝がかかる一方で、ブロンコスにとってもプレーオフ進出の最後の望みがかかっていた。負けると6敗目となりワイルドカードのレースが厳しくなってくる。そんな中でブロンコスは最高のフットボールを見せた。
勿論チーフスもいいゲームをしたと言えなくもない。リーグトップクラスのブロンコス・ディフェンスをずたずたにした攻撃力には脱帽である。ただ9連勝後のブレイクダウンは気にかかる。特にディフェンスの勢いが途絶えてしまった。このまま行くとするならば、スーパーボウルを制覇した時のようにワイルドカードからのブロンコスという線のほうが有力に見えてくる。複雑な気持ちがするが、ゲームそのものは今年一番のゲームの1つと思う。 |
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