第8回
スターQBファーヴから勝利を奪ったジェッツ・ディフェンス
〜第17週 ニューヨーク・ジェッツ×グリーンベイ・パッカーズ戦〜 |
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| 昨シーズン急成長を見せたジェッツQBチャド・ペニントン |
昨シーズンは、最終週までもつれにもつれる、NFLの戦略通りの展開となったシーズンだった。中でもAFC東部地区はもともと混戦だったところからインディアナポリス・コルツが抜けただけ、という最激戦地区。最終週の結果如何では、バッファロー・ビルズを除く3チームにディビジョン優勝の可能性が残った。
一昨年のスーパーボウルの覇者ニューイングランド・ペイトリオッツ、リッキー・ウィリアムズを得てリーグ最強のラッシングオフェンスを擁するマイアミ・ドルフィンズ、そして今回採り上げることになったニューヨーク・ジェッツ。
このうちペイトリオッツとドルフィンズは同じ日の早い時間に直接対決を行っており、その勝敗はグリーンベイ・パッカーズを迎え撃たんとしているジェッツにとっては、余りにも大きな意味を持っていた。というのは、ペイトリオッツが勝つことになると、パッカーズ戦勝利によってジェッツのディビジョン優勝が決まるからだ。98年以来のディビジョンタイトル。その響きは、選手のみならず会場を埋め尽くしたファンを一人残さずファイアアップした。
一方のパッカーズ。11月に2連敗を喫したものの、その後立ち直り、シカゴ・ベアーズ、ミネソタ・ヴァイキングス、サンフランシスコ49ers、そしてバッファロー・ビルズを降して、ジャイアンツスタジアムへ乗り込んだ。
前日にフィラデルフィア・イーグルスがニューヨーク・ジャイアンツに負けていたこともあって、勝てばファーストラウンドをバイ、更にホームフィールドアドバンテージをチャンピオンシップまで保証される。逆に負けてしまうならば、タンパベイ・バッカニアーズの勝敗によっては第3シードに転落する可能性を秘めており、重要な一戦であった。
ゲームはジェッツのKジョン・ホールのキックによって開始した。
ジェッツ・ディフェンスは、早速ブレット・ファーヴ率いるパッカーズのハイパーオフェンスを迎え撃つことになった。
言わずと知れたことであるが、パッカーズのオフェンスは緻密に計算されたタイミングと仕組みによって成り立っている。加えて選手の鍛えられ方が並ではない。特にオフェンスラインのコンビネーションやモビリティーはリーグでも有数で、エースRBアーマン・グリーンの走力とあいまって強力なオフェンスを築き上げてきた。
そしてそこにリーグMVPに3度輝くブレット・ファーヴが加わるのである。ファーヴのいいところは『無から有を産み出す』こと。すなわちプレイが潰れた、と思われた瞬間に、彼個人の力で局面を打開し、敵を圧倒してしまうのである。
勿論正確なタイミングパスやロケットアームは言わずもがな。全てを兼ね備えた完璧なリーダー、それがファーヴなのである。
それゆえ、このオフェンスをいかにしてコントロールするのか。この一点にテーマは絞られることになった。
最初の攻撃。パッカーズはRBグリーンのランから入り、2度のパスを投じた。1回目はエースWRドナルド・ドライヴァーへ。これは失敗。続く第3ダウンではルーキーWRジェヴォン・ウォーカーへ。わずか3ヤードのゲインに留まった。
今季のジェッツ守備陣は、長くビルズで3−4を指揮したテッド・コトレルによってコーディネイトされていた。一応4−3のパーソネルではあるものの、ルックは3−4、というより5−2。1線目に多くの人数を割き、それによってラン守備を固めた。
戦略としては、第1ダウン、第2ダウンはほぼ3−4(5−2)。第3ダウンになると4−3もしくは3−4をコールして、ラッシュやカバーに変化を持たせる、といった感じ。すなわち、ランファーストで止めにかかっていた、と言えるだろう。
実際このシリーズでも、5−2R、5−2カバー2、3−4クロスブリッツ5メンラッシュ、と使い分けている。
これには2つのわけがあった。一つ目は、コトレル自身が3−4のコーチである、ということ。そしてもう1つはランが出ないパッカーズ攻撃陣は恐るるに足りない、ということである。
昨年のファーヴを特徴付ける数字を『アメリカンフットボールマガジン』誌1月号に書いた。ファーヴは2RBセットからのパス成功率は73%もあるのに対し、マルチレシバーセットからは58%まで落ちてしまう。それゆえ、RBグリーンのランさえ止めることができれば、勝利へかなり近づくことが出来る、と言える。
また同誌に載せた数字には、ファーヴの闘志溢れるプレイスタイルと同時に、そこに潜む危険性を告げるものがあった。それは、『追い上げている時にはパス成功率がとりわけ高い代わりに、インターセプトを量産する』、という事実だ。
すなわち、尻上がりに良くなってきたオフェンスの得点力を考えると、先にリードすることによってファーヴを戦闘モードに突入させ、ミスを誘うことができる。そしてそれを一層確実ならしめるために、ランを完封する、ということ。それがディフェンスに課せられた使命だったといえるだろう。
ジェッツは続く攻撃を3&アウトで終える。パッカーズの攻撃も5プレイで終了。ただしここで重要な出来事が2回連続で発生した。
パッカーズは2プレイ目の第2ダウン5と続く第1ダウン10で、ファーヴのネイキッドからのパスをコールした。このプレイ、QBを守るブロッカーを持たない仕組みであることから『裸』を意味する『ネイキッド』と名付けられているわけだが、オフェンス的にはQBが狙い撃ちされるというリスクを伴う一方で、うまくいけばランと全く同じブロッキングで行われるため、ディフェンスを大混乱に陥れることが出来る、という利点がある。
特に速いパスラッシュDEを持つチームに対しては、その選手を引っ掛けることで警戒心を持たせ、その結果としてパスラッシュやバックサイドからのランパシュートを遅らせることが出来ることにもなる。
つまり相手を常に考えさせオフバランスにできる、ということだ。そしてジェッツの快速パスラッシャー(94)ジョン・エイブラハムは、案の定、2度に渡ってフェイクランに引っ掛かり、それぞれファーヴをフリーにしてしまった。
しかしこれをそのままにしておかないのが、HCにハーマン・エドワーズ、そしてコーディネーターにコトレルを擁するジェッツ守備だ。再びジェッツ攻撃陣が3&アウトに倒れた後、きっちりお返しをしておいた。
そのプレイが図1である。このプレイではこの日の基本フォーメーション5−2ストロングシェイドの形をとった。オフェンスはウィークサイドへのカウンターのフェイクからファーブがディフェンス左に流れてTE(88)バッバ・フランクスとの間でラン・パスオプションをするプレイだった。DE(92)ショウン・エリスはOT(71)バリーのインサイドムーブに反応するが、フランクスが自分をスクープしに来るのではなく、外側から押してきたのを感じ取り、ネイキッドと判断。すぐさまファーヴ目掛けてラッシュをかけた。
思わぬタイミングでプレッシャーを受けたファーヴは必死に逃げるが、エリスは逃がさない。−7ヤードのサックとなった。そしてこのドライブもストール。ジョシュ・ビドウェル、第1Qにしてこの日3回目のパントを蹴った。 |
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折り返しのジェッツの攻撃。エースRBカーティス・マーティンのランを軸に、自陣16ヤードからじりじりとチェインを動かしていく。ここで大事なのは出ようが出まいがマーティンを繰り返し繰り返しボールに絡ませたこと。結局はTDをとることになるのだが、そこに至る10プレイのうち、4プレイがマーティンのラン、そして2プレイがマーティンへのパス、計6プレイがマーティン絡みということになる。
そしてその6プレイが稼いだヤードは全部で31ヤード。アベレージ5ヤードというのはディフェンスにとって脅威以外の何物でもない。
そういった脅威を植え付けた上でコールしたのが図2のプレイ。パッカーズ陣10ヤードからの第3ダウン3ヤード。ストレッチされたバンチ隊形から、マーティンのカウンターフェイクの後にQB(10)チャド・ペニントンがネイキッド。スピードラッシャー、(94)カビア・バジャ−ビアミラもOLB(59)ネイル・ディグスも完全にフェイクに引っ掛かり、TE(88)アンソニー・ベクトは易々とゲインを稼ぐ。辛うじてダレン・シャーパーに代わりFSに入っていた(28)マット・ボウエンがゴール前1ヤードでタックル。しかし2プレイ後、このゲーム初のスコアが記録されたのである。 |
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このジェッツの攻撃に周到さとともに我慢というフィロソフィーを見るのは僕だけだろうか。我慢して丁寧に時を待つ。忠実にプランを実行する選手達と、その成果を無駄にしないプレイコーリング。終盤にかけて僕はジェッツオフェンスは完成の域に達したと見た。
さて、俄然勢いづくジェッツだが、すでにペイトリオッツがドルフィンズを破ったという報せは、スタジアムに届いていた。つまりこのゲームに勝つとするならば、ジェッツのディビジョン優勝が決定するわけである。
ジェッツ守備は、5メンフロントを維持しながら、ウィークにSSを入れてみたり、ゾーンブリッツで(94)エイブラハムをドロップさせたりして、どんどん仕掛けを始める。
ただ、ここで指摘しておきたいのは、このドライブの4プレイ目。WR(80)ドライヴァーがリバースを走った時のことだ。リバースはウィークサイドへ。すなわちエイブラハムが守るサイドである。
もし第1Qまでのエイブラハムであったなら、ブロッカーとして出てきたFB(33)ウィリアム・ヘンダーソンのブロックを受けて内側に押し込まれ、容易くコンテインを切らしてしまっていただろう。
しかしすでにエイブラハムを含めジェッツ守備はネイキッドへのアジャストを済ませており、その結果としてリバースに対してもエイブラハムは警戒を怠らなかった。そのためドライヴァーは行き場を失いうろうろしているうちにタックルを受け、嫌な形で倒れこんで負傷してしまった。
よせばいいのに、パッカーズはこの後もネイキッドを含むブーツレッグを多用する。図3に挙げたのは次のドライブの第1プレイだ。 |
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このプレイではネイキッドに対応し始めたジェッツDEをブロックするために、ブーツレッグムーブと逆サイドのOGマイク・ワールをプルさせている。しかしエイブラハムはお構いなしにファーヴを狙う。
ファーヴは辛うじてサックを避けることに成功するが、慌てて投げたWR(83)テリー・グレンへのパスは失敗に終わった。
ただこのドライブはグリーンのランがヤードをよく稼ぎ、順調に進む。そしてジェッツ陣5ヤードで迎えた第3ダウン4の攻撃時のことだ。
このゲームもGAORAで生放送していたので、僕はタイムアウトをとって大事を取ったパッカーズに対し、ネイキッドは止めたほうがいい、とコメントした。しかし悪い予想は当るもので、パッカーズは果たしてネイキッドをコールしたのだ。この時もエリスの早いプレッシャーを受けたファーヴは逃げ惑いながら何とか投げるが、FS(22)デイミアン・ロビンソンがWRロバート・ファーガソンへのパスをカット。パッカーズはFGの3点に留まった。ジェッツは後半にかけて次々に加点していく。ファーヴも前半の2ミニッツでは伝家の宝刀を抜いたかのように、見事なドライブを見せタッチダウンをお返しする。
しかし第3Qの大半が過ぎた時点で得点は、28−10ジェッツリード。
ファーヴがミスを起こすお膳立ては整ったということだ。
つまりランを出されない。そして得点差をつけてファーヴに頑張らせる。
第3Qに入ってからの2度目のパッカーズ・オフェンス。自陣25ヤードから始まったこのドライブ、グレンへのパスとグリーンへのラン/パスで順調に進んだ。そしてレッドゾーンに入ったところで第3ダウン7を迎えた。
フォーメーションはマルチレシーバーセット。ディフェンスから見て左に3人、右に1人+RB。対するディフェンスは3−2ダイムディフェンス。ILB(57)モー・ルイスはディレイブリッツの役目で、4メンラッシュ。そしてカバーは変則のカバー2マンだった。
どこが変則なのかというと、セーフティにはインサイドパターンを捨てさせサイドラインパターンを。CB始めニッケル、ダイムバックにはインサイドアウトで守らせ、アウトサイドパターンは捨てさせ、とにかくインサイドパターンを守らせたことである。
丁度前半の終わりに次のようなことがあった。ジェッツ陣37ヤードまで攻め込んで第3ダウン残り10ヤード。ここでパッカーズはカバー2の泣き所の1つサイドラインへのフライをコールした。
ターゲットはウォーカー。カバーはソフトなカバー2であったため、容易くCBの外側をとると一気にサイドラインを駆け上がった。ファーヴの投げたボールはCBとSの届かない完璧なものだったが、これをウォーカーがなんと落球。第4ダウンに追い込まれてしまった。
続くギャンブルプレイでは、縦を狙った後だったので、ウォーカーをスクエアインさせてCB、Sの前を狙う。そしてこれがヒット。23ヤードのゲインを奪い、スパイクに続くプレイでファーヴが『無から有を産み』だし、グレンにTDパス。14−10としたのだった。
ジェッツはこの時の攻められ方を想定していただろう。そして今ボールオンは20ヤード。縦を狙うにはスペースは足りない。ということはアンダーニースからミドルレンジへのパスが想定される。
そしてサイドラインを守り、更にインサイドパターンも守る。そのためには、ここで使ったような特殊なカバーが必要だった。
図4をご覧頂こう。パッカーズはグレンをモーションさせ左にレシーバーを3人セットさせた。グレンのマンツーマンはダイムバック(24)レイ・ミケンズ。そしてWRにセットしたウォーカーをカバーしていたのは、(29)ダニー・エイブラハム。
この両者とも、リリースと同時にレシーバーの内側を完璧にカバーし、行く手をさえぎると同時に、身体をターンさせてしつこく喰らいついていく。
一方のS(42)サム・ガーンズ。通常よりも外側にステップし、サイドラインへの警戒を強める。
そしてファーヴが投げた。直前にディレイで入ってきたLB(57)ルイスの姿が目に入ったのだろう。強引な手投げのボールは少し浮き上がり、そしてガーンズの腕の中に収まった。 |
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ここで誉めたいのはガーンズではない。インサイドアウトの関係を守りながら、レシーバーをジャムし、更に前に入ってボールを浮かせることに貢献したエイブラハムである。
勿論ミケンズもグレンを完璧にカバーしていた。この2人の仕事によってパッカーズは追撃の目を摘まれ、加えて続くドライブでジェッツに得点を許し、35−10。ゲームはほぼ決した。
パッカーズは無理をして勝ちに行くことを諦め、続くドライブからはバックアップQBダグ・ペダーソンを出場させ敗戦処理。1つのTDを返すが、結局42−17でジェッツが圧勝した。98年以来のディビジョン優勝を決定した瞬間だった。
オフェンスには様々な定石があるが、それは時に応じて変化を遂げていく。しかし変わらないのは、ディフェンダーの心理である。そのディフェンダーの心理をよく理解することにこそ、オフェンスの成功は存していると、ディフェンス出身の僕は考える。
それゆえディフェンス出身の皆さんに言いたい。自分はディフェンスだから、と枠を決めることなく、ディフェンス出身だからこそオフェンスをやってみてはいかがか。オフェンスのみしか知らないコーチよりも、もっとユニークなオフェンスが出来るかもしれないということを、ここに添えておきたい。
いずれにしても、この結果ファーヴは史上初の4度目のリーグMVPを逃し、パッカーズはファーストラウンドバイをも逃してしまった。結果としてアトランタ・ファルコンズのマイケル・ヴィックの前に撃沈し、スーパーボウル制覇の夢は潰えてしまった。
一方のジェッツ。コルツに大勝し、ディヴィジョナルプレイオフにまで進出するも、オークランド・レイダースの前に粉砕され、こちらも苦杯をなめた。
しかし今季の目玉となることは間違いない。僕の中では、今一番注目度の高いチームである。 |
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