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第9回
全勝チーフスを破ったベンガルズのゲームプラン
〜第11週 カンザスシティ・チーフス×シンシナティ・ベンガルズ戦〜
 
チーフスに今シーズン初の黒星を付けた直後のベンガルズ・ヘッドコーチ マーヴィン・ルイス
 シンシナティ・ベンガルズのルーキーWR(85)チャド・ジョンソンがこれまで無敗のカンザスシティ・チーフスに対して、勝利を“guarantee(保証)”したことから現地アメリカは、この発言一色の様相を示していた。
 特に僕の滞在していたミッドウェスト(中西部)には、チーフスの本拠地もある。お陰でこの話題で持ちきりだった。
 しかし、この発言がルーキーの世間知らずの結果、と片付けることは誰にもできなかった。なぜならあのベンガルズが、状況を好転させ始めていたからだ。
 勿論その理由としては、ヘッドコーチのマーヴィン・ルイスの就任が真っ先に挙げられるだろう。誰もが知っていることであり、繰り返しになることを懸念するが、敢えて書いておこう。
 ルイスは、ボルティモア・レイブンズがスーパーボウルを制した時のディフェンスコーディネイターであり、ワシントン・レッドスキンズに移ってからも、在籍したわずか1年でディフェンス力を大幅にアップし結果を残した、現在最も勢いのあるコーチの一人である。
 昨年のアメリカンボウル、「NFL OSAKA 2002」に、レッドスキンズのディフェンスコーディネイターとして来日していた彼に、GAORAの解説者として僕は失礼な質問をした。
「シラグサとアダムズがいたからあなたのディフェンスは成功したように思われますが、レッドスキンズでその再現は可能なんでしょうか?」
 今思い返すと冷や汗の出る思いがするが、彼は丁度マイアミ・ドルフィンズからダリル・ガードナーを獲得した直後だったので、それを引き合いに出して、「問題はない」と答えていた。
 印象に残っているのは、いわゆるオーラである。確固たる自信に満ちた勝負師の顔をしていた。アメリカ人ではあるが、『侍』とでも呼んだほうがいいような気合の入った風貌だった。


チーフスに今シーズン初の黒星を付けた直後のベンガルズ・ヘッドコーチ マーヴィン・ルイス
 さて、彼がヘッドコーチに就任した結果、ディフェンスが強化されるのは当たり前のことだろう。LBの核となる選手に大ベテランのケヴィン・ハーディを据え、テネシー・タイタンズの強力ディフェンスを支えたDTソーントン、チーフスのパスラッシュの核であったDEクレモンス、そして昨年のAFCチャンピオンオークランド・レイダースのCB(3)トーリー・ジェイムスを加えた布陣は、最強とは言えないが確かな仕事をするユニットとして計算できるものになった。
 しかしドラスティックに変わったのは、実はオフェンスであった。これまでエースRBのコーリー・ディロンにばかり頼り切っていたオフェンスであったが、シーズン当初に3連敗をした結果ダラス・カウボーイズへのトレードを口にしだし、それがきっかけでルディ・ジョンソンと言う新たなスーパースターの出現を生み出すことになった。
 丁度このゲームに先立つヒューストン・テキサンズとの一戦では、NFL史上2位タイとなる43回のキャリーを記録し、182ヤードを走っている。また彼のランを軸に据えたベンガルズオフェンスは、5分以上のドライブの数でリーグ1位タイ、10プレイ以上のドライブの数でリーグ1位タイ、スコアリングドライブにかけたプレイ数の平均でリーグ1位という驚異的なドライブ力を見せている。
 ディフェンス出身の新任ヘッドコーチは、往々にしてこうした「No Nonsense」なパワーフットボールをする傾向がある。キャロライナ・パンサーズのジョン・フォックスがもう一人の代表であるが、自分の得意分野をまず堅めて置いて、オフェンス力が徐々に上がるのを待つという作戦である。面白いことに、この両チーム、同じ道筋をたどりながら、パンサーズが今年プレイオフ進出をほぼ確実にしているのは、ベンガルズにとって非常に示唆に富んでいると言えよう。
 さて、前置きが例によって長くなった。早速ゲームを振り返っていきたいと思う。
 ゲームはベンガルズのホーム、ポール・ブラウンスタジアムで行われた。スタジアムの名前ともなっているこのブラウン氏、もともとクリーブランド・ブラウンズのオーナーであったのだが、そこから追い出されたことがきっかけでベンガルズを作ったという曰くつきの人物である。勿論ベンガルズとブラウンズのライバリーは、相当に激しい。
 ゲームはチーフスのキックで開始された。ゲーム前のインタビューで、マーヴィン・ルイスが、「得点を気にせずに、自分達のプレイをやりつづけるんだ」とロッカールームで話した、と言っていたのが耳に残る。
 ルディ・ジョンソンを得た新生ベンガルズ・オフェンスであるが、QBにはジャーニーマン、ジョン・キットナを据えた。レシーバーにはピーター・ウォリック、そして例のチャド・ジョンソン。
 一方のチーフス。ランストッパー、パスディフェンダーともに最高の駒が揃い、ようやくディフェンス・コーディネーター、グレッグ・ロビンソンのやりたいことができる環境ができた。
 昨年まではブリッツを入れても、プレッシャーが届く前にパスを通される。ランに対しても出入りが激しい。といいところがみられなかったが、これでデンヴァー・ブロンコスがスーパーボウルを2連覇した当時のディフェンスを再現できる。事実、彼の得意とする『overload blitz』がこれまでのゲームでも随所に見られ、豊富なタレントによってタ-ンオーバーレイシオで+18という驚異的な数字を生み出していた。
 DEヴォニ−・ホリデイ、エリック・ヒックス、Rカル・トゥルーラック、DTライアン・シムズ、LBショウン・バーバー、スコット・フジタ、FSジェローム・ウッズ…スピード的にもパワー的にもトップクラスのメンバーが揃ったと言っていいだろう。特にLBはバーバーを加えたことで、フジタとともに、ニッケルシチュエ−ションでも働ける大型のディフェンダーが増えたことを意味している。
 ベンガルズはまず2TE1RB(これ以降Double)から3ステップのパスを試みるが、ブリッツに入ったバーバーがデフレクトした。このブリッツはゾーン・ブリッツで、3ディープの形をとっていることから、プレイの選択としては間違いではなかった。
 続く第2ダウン10では、ウォリックへのリバース。ルディ・ジョンソンへのトスの形をとったことから、トレイルの役目を負っていたホリデイが簡単に引っかかる。バーバーが喰らいつくが、ブロッカーを抱えている中で、タックルには及ばなかった。第1ダウン。
 続くプレイでは、力でこじ開けるために、2TE2RBのショートヤーデージ用のパーソネルを入れる。しかしここはチーフスディフェンスが堅く2ヤードのゲイン。
 第2ダウンでは、先程のウォリックのリバースをアフターフェイクとして使って、『Fake Reverse』を試みるが、5ヤードのゲインに留まる。第3ダウン3のシチュエーションはプレイアクションからジョンソンにダンプオフするが、タックルが早くパントに追い込まれた。
 このパント、実はベンガルズにとっては頭が痛かった。なぜならチーフスにはダンテ・ホールがいるからである。彼は今シーズンの初戦から4ゲーム連続でスペシャルチームのリターンTDを決めている。この4リターンTDという数字は、すでにNFLのシーズン記録に並んでいる。
 加えて、ベンガルズのパントカバーユニットは問題を抱えていた。よってパントはできるだけ避ける。すなわちドライブをできるだけ続けるというのがゲームプランの1つになっていたはずだ。しかしやらざるを得ない。パンター、カイル・リチャードソンはレッドゾーンぎりぎりに落とすが、そこからホールは26ヤードのリターンを決めた。これで今シーズン20ヤード以上のパントリターンが6回目。NFL最多である。
 チーフスは1RBセットであるが、TEサイドに2人のワイドレシーバーをアラインさせたTreyフォーメーションから入る。このフォーメーション、今シーズン各チームが多用しているので、ちょっとした流行と言えるだろう。
 特徴は、パスストレングスとランストレングスが同じ方向にあること。それゆえディフェンスはTEのいるサイドにオーバーシフトしやすい。その結果、ウィークサイドに大きなソフトスポットが生まれる。そこを攻める。そしてそこをディフェンスが気にしだしたならば、今度はストロングサイドを攻める。余りにも簡単に言ってしまったが、結局はそこに収斂してくる。
 結局ここでの攻撃は、WRモートンの落球もあり、またベンガルズディフェンスの準備の確かさもあり、3&アウト。自陣48ヤードからの絶好の攻撃を、無駄にしてしまった。
 一方のベンガルズ、同様にTreyフォーメーションを使い、ウィークサイドを攻めてみる。しかし思ったより出ない。プレイアクションを試みるが、チーフスは周到に4ディープカバレッジを敷いていた。結局、ダンプオフして逃れるが、アンダーニースに弱いカバー4の泣き所を結果的に攻めた形となる。第1ダウン。
 ジョンソンのランを挟み、DoubleフォーメーションからTEのフラット。実はこのときチーフスは第1プレイと同じゾーンブリッツを繰り出していた。ディフェンスのコールは、ダウン&ディスタンスとともにフォーメーションによって大きく変わってくる。いわゆる“パーソネル”と言うことだが、日本では各ポジションで大きな差が生まれにくいので、あまり馴染まない考え方かもしれない。しかしアメリカでは足が速い、俊敏である、背が高い、パワフルである、ブロック力がある…等々について、各ポジション間での差が大きい。それゆえ“パーソネル”を抜きにして戦略は語れないという、こちらから見た特殊事情がある。
 チーフスが2度にわたってDoubleフォーメーションにある特定のブリッツをしようとしたということは、それが彼らのTrey対策に含まれていると言うことだ。同時にベンガルズのコールしたのは、3ステップからのTEへのフラット。このコールはCBの前のアンダーニースが空くことを予想した上でのコールであることから、この面ではベンガルズの準備が勝っていると言うことになるだろう。
 しかしこのプレイで第3ダウン1としたにもかかわらず、続くプレイではブラスト系のプレイをコールし、チーフスの鉄壁ディフェンスに跳ね返されてしまった。
 本日2度目となるパント。そしてホールによる28ヤードのリターン。これで28ヤード以上は7回目。
 チーフスは、再び自陣48ヤードからの攻撃権をホールにセットアップしてもらったのにもかかわらず、またしても3&アウト。特に第2ダウンのプレイでは、DTトニー・ウィリアムスが激しいペネトレーションを見せ、ホームズをロスタックル。レイブンズ時代とは少し違った感じがするが、強力なDLでスクリメージをコントロールし、LBがタックルするというマーヴィン・ルイスの哲学は確かに生きている。
 それにオフェンスも応えるかのように少しずつではあるが、ドライブが続くようになってきた。ルディ・ジョンソンのランで8ヤード。エンプティを使って第1ダウン獲得。
 プレイアクションを狙い失敗するも、続く攻撃ディロンがいい判断を見せ、本来のホールとは異なるところではあるが、そこを衝きダウン更新。
 さらにもう一度のダウン更新を目指すが、第1、第2ダウンをランで思うように進めることができず、第3ダウン6。このパスを決めることができず、パント。
 リチャードソンはこの日、最高のパントを蹴るが、イリーガルタッチ(自分の意志でサイドラインから出てしまった選手がフィールドに戻り、一番最初にボールに触ること)によって蹴り直しとなる。ホールは14ヤードを返し、チーフスは自陣36ヤードからの攻撃権を得た。
 チーフスはDoubleフォーメーションでディフェンスをストレッチしておいてから、プレイアクションで、エースWRケニソンへカムバックに投げダウン更新。しかしTreyフォーメーションを軸にした攻撃がうまく機能しない。ドローは出たものの、通常のホームズのランがまったくでない。反則も絡み、結局パント。
 ベンガルズの最初の攻撃で、ホリデイがサックを決めると、ベンガルズはスクリーンで陣地挽回を試みる。これを若手の伸び盛りシムズがパスラッシュからリターンしタックル。そして今年のチーフスを代表する、オールアウトの7メンブリッツでウェズリーが再びサックを決めパントに追い込んだ。
 ここで、先程と同様ベンガルズのカバーチームに反則が起こる。折角ホールがボールをマフし、リターンヤードを0ヤードとしたにもかかわらず、蹴りなおし。これがエンドゾーンの中からのパントとなり、激しくラッシュをかけたチーフスのバイゼルによってプレッシャーを受けたリチャードソンのパントはシャンクし、チーフスはベンガルズ陣42ヤードという絶好のポジションを得た。
 しかし何と3&アウト。ホームズのランが相変わらず出ない。嫌な予感が走る。

 一方のベンガルズ。自陣17ヤードからの第1ダウンでフォールス・スタート。第1ダウン15ヤードとなる。しかしここをチャド・ジョンソンへのパス一発で切り抜け、ファーストダウン。
 このプレイではエンプティーからのパスをコールしたのだが、これがとてもよくできたルートだった。ディフェンスのアジャスト、役割を完全に読みきったプレイで、いつ投げても決まるようにできている(図1)。
 最初のスプレッドに対しては、ディフェンスは4−3の形を維持したままバランスよく守っている。しかしRB(28)ディロンがモーションし、右サイドに3人が固まることによって、LB(57)マスロウスキーがそちらにシフトする。この時点でもチャド・ジョンソンの走り込んだゾーンは空いているが、念のためにTE(89)スチュアートにLB(59)バーバーの釣り役をさせる。ゾーンカバーと言っても純粋なゾーンではなく、走り方によってマッチアップさせていくゾーンであることから、バーバーは必然的に自分の役割を果たし、スチュアートに反応する。これで仕込みは完璧である。
 タイミング的にも5ステップからヒッチステップを踏めば投げられるパスであるため、4メンラッシュでは届かない。たまたま図のようにチーフスは時間のかかるスタンツを入れていたため、ベンガルズの狙い通りとなった。
 これで何かきっかけを掴んだように、キトナは苦しいシチュエーションをまるでブレット・ファーヴであるかのように切り抜けていく。第3ダウン5、スクランブルからWR(80)ウォリックへのパス。第2ダウン10、ブリッツを見てオーディブルをしての3ステップ。チャド・ジョンソンへのクイックアウト。第3ダウン5でプレッシャーを受けた時、チャド・ジョンソンを見つけて、インターセプトされずまたジョンソンが追いつける場所にロブしたパス。ジャーニーマンと言うより熟練した技を持ったベテラン、と評するのがふさわしいプレイ振りだった。
 しかし、結局はシェイン・グラハムのFG3点の獲得にとどまった。

 折り返しのチーフスは、状況の打開を狙う。プロウィング隊形からプレイアクションパスを試みる。ウィングにTEを入れたことによって、ランを強力に意識させたわけだが、ベンガルズディフェンスはいわゆるゾーンブリッツを選択。丁度LB(57)ロスとSS(45)ベケットがフェイクの入ったホールを2人で攻め、判断に迷ったフェイクバックホームズが2人ともとり漏らす。ロスがプレッシャーをかけ、ついにはベケットがサック(図2)。手痛いロスを喫してしまった。
 今ではどのチームも使うようになったゾーンブリッツ。オーバーロードさせてプロテクションを強引に壊しながら、DLをパスドロップさせ人数を合わせる。今主流なのは3ディープ3アンダーのゾーンであるゆえ、判断さえよければパスをヒットさせることはできる。しかしプレイアクションのような遅いプレイにはとても効果を発揮する。特に今回のプレイでは、パスドロップするはずのOLBに加えて、その外側からSSがブリッツした。オフェンスとしてはホームズをパスドロップするはずのOLBにアサインするのが精一杯。それ以上のブリッツには手の打ちようがない。完全にディフェンスのコールの勝ちである。
 お陰でチーフスはまたも3&アウト。ますます状況が見えなくなった。
 ベンガルズはこの後もチャド・ジョンソンへのパス、ルディ・ジョンソンのラン、ウォリックのスピードを生かしたバブル・スクリーンなどで攻め込むが、48ヤードのFGをグラハムが外してしまう。 
 すでに2ミニッツを切り、前半の残り時間は57秒。攻撃権を得たチーフスは、通常の状況とは異なる1ミニッツシチュエーションのソフトなディフェンスをきっちりとTE(88)ゴンザーレス、WR(87)ケニソンへのパスで切り裂き、モーテン・アンダーセンのFGに結びつける。さすが、という一言に尽きる攻撃だった。
 しかし問題はそれだからこそ大きかった。通常のシチュエーションで普通のドライブができない。何がおかしいのか。その修正を後半に期待して、前半終了。

 前半をまとめると、ベンガルズのゲームプラン通り、というのが一番に頭に浮かぶ。ボールとクロックをコントロールして、ハイパーオフェンスをフィールドに出さない。フィールドに出た場合にも、DLの激しいペネトレーションによってOLのブロッキングスキームを力ずくでねじ伏せる。またゾーンブリッツとタイトなマンカバーを併用することで、QBとレシーバーの判断を遅らせタイミングを奪う。すべてが機能している、という印象が強い。
 一方のチーフスであるが、オフェンスがこれだけ調子を崩しているにもかかわらず、ディフェンスがしっかり踏ん張り続けているのは、さすが全勝のチームという感じがした。しかし問題はオフェンスの対策の遅さである。ゾーンブロックはことごとく破られているにもかかわらず、得意のクロスブロックをほとんど出さない。QBにプレッシャーがかかる中で、それを和らげるための方策をとれていない。珍しくアジャストの遅れが目立つゲームという印象だ。
 後半のレシーブはチーフスから。ここでようやくランが一つ出た。ダウンを更新した後の第1ダウンのプレー。先程の指摘どおり、ペネトレーション対策としてようやくクロスブロックを使ったプレイを繰り出した(図3)。これが9ヤードのゲインを獲得。フォーメーション的には2TEにすることで、クロスするのにいいアングルを作り出す。また大型WR(85)ボーリクターを入れることで、DBのブロックを強化。図にあるように、外側の選手が中の選手をとり、中の選手が外側にプルアウトしてLBをブロックする。アンダーレイトされていると言われているC(62)ウィーグマンとOT(77)ローフが確実にLBをブロックし、ボーリクターがFS(20)ローマンを力ずくで外側にウォッシュアウト。その間隙をホームズが駆け抜けた。
 続くプレイではゾーンに戻り、ウィーグマンの技ありの引き落としで(94)ウィリアムスを処理。ホームズは20ヤードを走った。
 問題はホームズがニーダウンした後でボールをストリップされた時のこと。ボールに飛び込んだLGウォルターズが負傷してしまったのだ。これにより不動のOLの一角が崩れる。

 その3プレイ後、第3ダウン1のシチュエーションで、ウォルターズの穴を埋めたスピアーズのサイドを避けて、フォーメーションのウィークサイドである右へ展開した。しかし、クロスブロックを使わなかったこと、ベンガルズが4人のLBをいれて強力なディフェンスを強いていたこと、そしてその結果ウィーグマンがNGに入っていた(70)スティールをゾーンで取りきらなくてはならなくなったこと、により、プレイは潰されてしまう(図4)。これは完全にディフェンスに先手を行かれたといえるだろう。
 先手、の意味は、フォーメーションが2TEのウィングセットであったにもかかわらず、チーフスはディフェンダーの人数の少ないと予想されるウィークサイドにプレイを展開し、ベンガルズはそれに対しても答えを持っていたということである。先程指摘の4人目のLBの投入。ウィークサイドの外側から(57)ロスをペネトレートさせるブリッツ。そして4人目のLBをスティールの後ろにアラインさせて、ウィークサイドを守るディフェンダーを4人にしたこと。
 通常8メンフロントのウィークサイドは人数的に負けるため、ストロングへプレイ持っていくことが多いが、QBのグリーンはディフェンスの隊形を見誤ったか、そのままプレイを行い、結局スティールによるロスタックルを喰らってしまった。
 これは勿論スティールの個人技とも言えるが、このプレイに僕はルイスのDLに対する考え方を見る。
 「OLが横に動いている間に前に出る」。これによって、OLが前へブロックする勢いを得る前に当たってしまえる。時にはフックされて外側を取られてしまうかもしれない。しかし、それもお構いなし。お行儀よく相手の動きをしっかりと見ているより、破壊的なペネトレーションを好む。そのフィロソフィーがもたらしたプレイであったのだ。このゲームを通じてこのフィロソフィーは生き続け、そのアグレッシブネスはパスにおいてもグリーンへのプレッシャーとなって成果をもたらした。
 チーフスは結局アンダーセンの39ヤードFGに落ち着き、とりあえず逆転に成功した。6−3。
 しかしここからゲームが動く。
 第1ダウンのパスプレイで、プレッシャーを受けたキトナがポケットから逃げ出し、スクランブル。タックルに来たバーバーを跳ね飛ばし、勝利にかける気持ちをプレイで見せる。その思いをルディ・ジョンソンが第1ダウンにつなげていく。
 続くプレイではルディ・ジョンソンへダンプ。TDを狙ったパスがチーフスCB(22)マクリオンによってカットされると、再びルディ・ジョンソンにボールを持たせ5ヤード。ウォリックへのパスでダウンを更新すると、またもやラン。ジョンソンを使いまわしていることから、このシリーズ、ジョンソンがらみでTDを狙ってくるに違いない、と感じたその瞬間のことだった。
 レッドゾーンに入った第2ダウン9ヤードから、ルディ・ジョンソンへプレイフェイク。FBのジェレミー・ジョンソンへフラットを投じたのだ。これが簡単に決まっただけでなく、J・Jはそのままマスロウスキーを振り切り、パイロンを蹴り倒してTDを奪ってしまった。
 ジェレミー・ジョンソンという陰に隠れた存在を生かせる段階に至るまで、繰り返し繰り返しルディ・ジョンソンに持たせ、ウォリック、チャド・ジョンソンにパスを決める。まさに「No Nonsense」。定石通り。ここにキャロライナ・パンサーズに通じる「No Nonsense Football」を見るのは僕だけではあるまい。10−6。再逆転。
 だが、チーフスも黙ってはいない。ホームズのランが出だしたことから、プレイアクションでゴンザレスに13ヤードのパスを決めると、ケニソンをフィーチャーしながらボールを進める。敵陣30ヤード付近に達すると、ディフェンスをオフバランスにするカウンター、ブーツレッグを続けてコール。しかしベンガルズはこれまでの戦いの中で自信を深めているため、容易には引っかからない。特に第2ダウンのブーツではカバー2でアンダーニースを守るCB(27)ホーキンスがケニソンに強烈なタックルをお見舞いし、第3ダウン5のシチュエーションへ持ち込んだ。ここでベンガルズが選択したのはQBへのプレッシャーではなく、レシーバーへのプレッシャー。4メンラッシュで、2マンを繰り出す。すでに4メンでも十分なプレッシャーを生み出し始めたベンガルズフロント4によってグリーンは投げ急ぐ。しかしトレイルテクニックを使ってホールにマンツーマンでついていたローマンによってパスはバットダウン。カバーをころころ変えるベンガルズに対応できない様子が見てとれる。
 アンダーセンが43ヤードのFGを蹴る。しかしショート。1点差にできたはずが、大きく予定が狂った。
 ただチーフスディフェンスがベンガルズを3&アウトにしとめ、再びボールを奪い返す。どうもディフェンス戦の様相を呈してきた。
 KCは自陣17ヤードから攻撃を開始する。プレイアクション、クロスブロックを使ったアウトサイドへのラン、3ステップでボールを進めるが、QBサックを喫したのと同じスキームのブリッツによりホームズがロス。続く第3ダウンもブリッツによるプレッシャーで逃げ惑いながらのパスインコンプリート。パントとなった。
 どうもうまくいかない。それだけでなく、ホールのお株を奪うようにパントリターナー、ピーター・ウォリックが68ヤードをリターンし、TDとしてしまう。17−6。
 すでにQは変わり最終Q。これまで4Qにおける6点差(ブロンコス戦)、17点差(パッカーズ戦)をひっくり返してきた実績はあるものの、続く攻撃は3&アウト。
 ベンガルズもダウンを更新はするものの、パスの連続失敗でパント。これをホールが見送り、結局チーフスは自陣6ヤードからの攻撃権を得ることになる。
 この苦しいシチュエーションをホームズへのスイングスクリーンで乗り切ると、(80)モートンへのパス。再びモートンへのロケットスクリーン。ケニソンへのパス。全てのプレーでダウンを更新していく。このドライブの爆発力に解説のランディ・クロスは、
「これこそがチーフスのオフェンスだ」とコメントしていたが、まさしくその通り。突如としてそのフォームを取り戻したチーフスは、続くウィングプロ隊形からのプレイアクションでゴンザーレスへTDパスをヒットした。
 FGの範囲に入るため、チーフスは2ポイントコンバージョンを試みるが、ゴンザーレスに投げられたパスをベケットがカット。5点差を残した。
 僕自身ランがシャットアウトされているので、パスにシフトすべきと思っていたところなので、まさしくその通りの展開をしてくれて、非常に納得した。
 しかし、である。
 続く攻撃でのファーストプレイでチーフスは、『クォーター3』のコンセプトを使ったカバーを用意していた。そこにベンガルズが5ステップからダブルポストを試みる。1対1となった(80)ウォリックと(44)ウォーフィールドのマッチアップであるが、これをキトナの完璧なパスとウォリックのスピードによってコンプリート。ウォーフィールドのまずいタックルによってそのままTDとしてしまったのだ(図5)。77ヤード。
 ディープを守るCBに対しスキニーポストは最も有効なディープルートであると言えるが、ここではそれを実証した形になった。ウォーフィールドの内側にリリースし彼の真横のレベルをとった瞬間縦にテイクオフ。後はQBがCBの届かないところにボールを投げレシーバーを導く。レシーバーの走りとQBによる的確なリードボールがビッグプレイを生み出したというわけだ。
 チーフスのとっていた『クォーター3』カバレッジとは、CBとSSがディープの1/4をそれぞれ受け持ち、逆のサイドはカバー2と同じ守り方をする。それぞれのレシーバーのディープを担当するDBがいるため、ディープに対しては本来穴のないディフェンスのはずであった。
 ウォリックはウォーフィールドが、TE(86)スチュアートは(25)ウェズリーが、それぞれディープに走ったならマンカバーする。しかし1対1で負けるのであればいかんともし難い。膝に手をつき、頭を抱えたヘッドコーチヴァ-ミールの様子がゲームの状況を物語っていた。24−12、ベンガルズ。
 残り6分2秒。12点差。2つのドライブをタッチダウンに結び付けなければならない。チーフスはかなり厳しいシチュエーションに置かれたことになる。しかし2ミニッツに入ってから1本とると考えるなら、まだまだ時間はある。タイムアウトも3つ残っている。
 早速ノーハドルでの攻撃を始めた。裏をかいたホームズのドローはローマンによってタックルされるが、ゴンザーレス、ケニソンへのパスで、次々とダウンを更新する。ともにサイドラインを割って、時計を止めることを忘れない。
 ベンガルズ陣41ヤードに至って、2プレイ連続でパス失敗。特に2ダウンではこれまたローマンがマンカバーしていたモートンへのパスをカット。セーフティでありながらニッケルバックに入っている真価を発揮した。
 第3ダウン10。これを成功させないと苦しい。ディフェンスの予想はブリッツ。そこでゴンザーレスをRBの位置に入れて、スプリットバックでプロテクションを強化した。しかしブリッツは入らず。4メンフロントのスタンツのみ。にもかかわらずRTテイトがホールディング。第4ダウン10を嫌うベンガルズはこれをとり、第3ダウン20。
 エンプティーからパスを試みる。DE(90)スミスのスピードラッシュにテイトが振り回され、グリーンをサック。と思った瞬間、そこから逃げ出したグリーンはモートンにヒット。少しでも前に進もうとするモートンにベケットが襲い掛かる。もみ合い状態の中、モートンはボールをファンブルするが、ダン・バイ・コンタクトの判定でチャレンジできず。第4ダウン2。そしてこのプレイでディフェンスのイリーガルコンタクトが発生し、チーフスのドライブは生き長らえた。
 ベンガルズ陣29ヤード。最初のプレイはボーリクターへのパスであったが、ローマンがまたしてもカット。恐ろしいくらい冴えている。第2ダウンのプレイでモートンへのフック。これをモートンがダイビングキャッチで確保し、ダウン更新。両チームの気迫が本当によく伝わってくる。
 ボールオン19ヤード。ブリッツが入って手薄になったミドルレンジに走り込んだゴンザレスにパスをヒット。これでゴール前3ヤード。
 第1ダウンではゴンザレスを再び狙う。LBの間に入った彼にグリーンは完璧なボールを投げる。しかし、ゴンザーレスの両の手をすり抜けて失敗。続く2ダウンではエンプティーから少しスクランブルしながら、空いているレシーバーを探す。そしてTE(89)ダンへヒット。タッチダウン。シナリオ通りの展開に、チーフスの底力を見る。24−19。
 続くキックオフでベンガルズ側に手痛い失態が生じる。オンサイドを警戒して1人ターナーとしたベンガルズリターンチームに対し、チーフスはフィールド左奥にボールを蹴りいれる。そのボールがゴールラインにタッチしてから再びインフィールドにバウンスバック。これを見たリターナー、(36)ブランドン・ベネットは慌ててボールを拾い上げると、リターンを始めた。
 しかしチーフスのカバーチームはすでに十分な時間をもらってペネトレートしており、10ヤード付近でタックル。ランディ・クロスの言うように、タッチバックとなっていたはずであることから、非常にまずい展開となった。
 しかし、第1ダウンで6ヤードを獲得した後の第2ダウン4のことであった。この日、度々見せていたスペシャルなブロッキングからのプレイで、ルディ・ジョンソンが抜け出し、バーバー、ウォーフィールド、ウッズのタックルをかわし、54ヤードのロングゲイン。チーフス陣奥深くまで攻め込んだ(図6)。
 ルディ・ジョンソン自身が言っている。
「ヒットの後のゲインが俺の走りなんだ」。その言葉を証明するかのようなランにスタジアムは盛り上がる。この時点で155ヤードの獲得。チーフスディフェンスは文字通りずたずたにされた。
 2ミニッツに入って、ダウンを更新したベンガルズは、ニールダウン。チーフスは初の黒星を喫することになった。
 
 全勝を続けることがいかに難しいか、ということは繰り返し指摘されていた。そしてチャド・ジョンソンの勝利宣言は、失うもののないベンガルズよりもどうしても勝たなくてはならないと言った気持ちを持たせたことによって、チーフスをより強く縛り付けた。そして自分達の持てる力をマキシマイズしたベンガルズが、力ずくで勝利をもぎ取った。ルイスの覚悟の勝利、といってもいいだろう。パスハッピーな近年にあって、こんなオーソドックスなフットボールにも生命が宿っていることにある面感動を覚える。
 「No Nonsense」。チーフスも一見華やかなチームであるが、同じフィロソフィーを持つチームである。しかしアジャストの遅れが、致命傷となった。出ないプレイをそのままにしたことは、「No Nonsense」とは言えない。そのコストは高くついたが、これをきっかけに自分たちのあるべき姿を再確認してくれることを、チーフスファンの僕としては願う。

back number
第13回 エクスキューションとアウトコーチング
〜AFCチャンピオンシップ ニューイングランド・ペイトリオッツ×インディアナポリス・コルツ戦〜
第12回 『TAMPA 2』を攻略するためのジャイアンツ・ゲームプランがいかに崩れたか
〜第12週 ニューヨーク・ジャイアンツ×タンパベイ・バッカニアーズ戦〜
第11回 我慢が呼ぶ勝機
〜第3週 キャロライナ・パンサーズ×ミネソタ・ヴァイキングス戦〜
第10回 デンヴァー・ブロンコスオフェンスの凄み
〜第14週 カンザスシティ・チーフス×デンヴァー・ブロンコス戦〜
第9回 全勝チーフスを破ったベンガルズのゲームプラン
〜第11週 カンザスシティ・チーフス×シンシナティ・ベンガルズ戦〜
第8回 スターQBファーヴから勝利を奪ったジェッツ・ディフェンス
〜第17週 ニューヨーク・ジェッツ×グリーンベイ・パッカーズ戦〜
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第6回 準備の大切さとゲーム中の判断の難しさ
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第5回 スーパーボウルでのバックス勝利を用意したドルフィンズのゲームプラン
第4回 カウワー、フィッシャー両ヘッドコーチの率いる2チームのハイレベルな戦い
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第3回 明暗を分けたプレイアクション・パスへの道
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第2回 第13週、ニューオリンズ・セインツ対タンパベイ・バッカニアーズキープレイ解説
第1回
サンディエゴ・チャージャーズの戦略

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